第26章 告
身を固めるなんて、そんなこと。
俺にはもっと先か、一生ないのか。
絵空事みたいに思ってた。
人生の伴侶を得て、共に生きる。
そんな相手、選べねェって。
自惚れに聞こえるけど。
数人の女が、俺に好意を持ってくれてること。
そりゃ、普通に気付くだろ。
でも、誰も選べない。
俺自身が、欲しいと思えないから。
一時の熱なら、冷ます方法はいくらでもあって。
抱いて終わりもあれば、自己処理だってある。
実際、もう若くねェし。
イヤ、まだまだ元気に走れるけど。
相手の好意を無下にして抱いたら。
俺の中の何かが、折れちまう。
手に入れたいと願ったのは、初めてなんだ。
依頼人として出逢って。
放って置けない存在になった。
ソフレになって。
昇格して恋仲になった。
「何でも拾っちゃ駄目ですよ」
前に新八に言われたことがある。
ガキじゃねェんだから。
そんなこと解ってる。
犬猫じゃあるまいし。
況してや、朱里ちゃんは拾ったんじゃねェ。
アレ、最終的には拾ってきたんだっけ?
捕物劇の末に捕まえたんだろ、アレ。
甘い匂いという、キーワード。
散々、心を掻き乱されて。
欲しいと願った。
護ってやりてェと思った。
形振り構わず、手に入れたいと。
初めての思った女。
気持ちが通じて、抱いた。
今までに味わったことのない、甘味を帯びて。
躰の相性について、説いてたのは誰だっけ?
併せて、匂いについて。
あ、飲み屋で隣に座ってたオヤジだ。
何か、研究してるって。
偉そうなうんちく、語ってたわ。
論文テーマは『男と女の嗅覚の違いが引き起こす、恋愛感情の合否』だっけ?
何言ってんのか、さっぱり解んなかったけど。
男は女の放つ、人工的な香りに惹かれて。
女は男の放つ、野性的な香りに惹かれる。
どんなに相性が良くても。
女が男の放つ香りに難色を示せば、結婚には至らない……だっけ?
俺の匂いが好きな朱里ちゃん。
それって、そういうコト?