第24章 呼
「坂田さん……」
坂田さん、違う。
俺は『銀さん』って呼ばせたいの。
さっき寝言で呼ばれたみたいに。
キュンキュンしたいわけで。
「……ダメ、ですか?」
あざとい上目遣い。
速攻でしたいのは、山々だけど。
俺にも譲れない一線がある。
「銀さんって、呼んでくれねーの?」
アレって夢の中、限定?
夢の中の俺と、現実の俺の違いって何?
あっちの方が、俺よりイイ男なの?
そんなん銀さん認めないからね。
ヤキモチ焼く相手になんねェし。
同じ俺だし。
「呼んでみ?」
鼻の頭を合わせて、覗き込んだ目が揺れて。
また涙目。
可愛いにも程がある。
「……夢の中では呼んでるなんて、不公平だろーが」
俺の言葉にハッとして。
みるみる顔を紅くする。
「俺だって、呼んで欲しーわ。夢の中の俺が羨ましーわ」
大人とか男とか関係ねェし。
俺は、その声で『銀さん』って呼んで欲しいんだよォォォ!
「坂田さん、駄々っ子……」
形振り構ってらんないの。
俺以外の俺にしてること、俺にもして欲しいの。
俺以外の俺?
何か混乱してきた。
「可愛い、銀さん」
クスクス笑いながら、頬に唇を寄せられて。
必死になってる自分が、冷静さを取り戻す。
「……俺の負け?」
朱里ちゃん次第の軍配は。
判っちゃいたけど、俺の完敗で。
その声で呼ばれた、己の名に。
全身に電気が走ったような衝撃。
これは癖になりそうだ。