第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「あのお店に長州の人が沢山来てるみたい。」
「やはり。店主はどうだ?」
「わかんないけど…長州の言葉じゃなかったかなぁ」
「他に何か気になることはなかったか」
山崎の質問に、夢主(姉)は少し考え込む。
「店主と番頭さん、仲悪いみたいな?番頭さん、ひたすら愚痴をこぼしてるの。」
夢主(姉)は、とにかく気になったことはすべて山崎に伝えた。
そしてその判断は山崎にまかせる。
夢主(妹)ほどはっきりと今自分が置かれている立場をわかっているわけでもなかったし、勉強が苦手なのもあって、史実が頭に入ってるわけでもなかった。
監察方という仕事も、「忍者になる」と、少しズレた見解をしていた。
だから、夢主(姉)の思い描く「忍者」に、「報告をしてる姿と指示をうける姿」があった為、基本的に本能で動こうとしてしまう夢主(姉)でも、報告は欠かさなないし、しっかりと指示を待つ。
いっそのこと忍者になれたらいいのになぁ。忍者養成学校とかないわけ?
夢主(姉)はそんなことを毎日思っていた。
忍者への憧れという点で、山崎と夢主(姉)はとても波長があっているのだろう。
時間があるときは、山崎と共に、屯所の周りを足音を立てずに走る練習をしてみたり、天井裏まで登る速度を鍛えたり…京都の街をひたすら走り込む…といった、いわば「忍者部」のような活動をしている。
屯所を表立って歩けない夢主(姉)だが、山崎と共にこそこそとする生活が、少し楽しくなってきていた。
「こんな時間までご苦労だった。今日はもう休んでくれ。」
「山崎さんもお疲れ様。」
夢主(姉)は、笑顔で山崎におやすみなさいと告げて、久しぶりに千鶴と夢主(妹)が眠る部屋へ戻った。
今調べていることが、なんだかとっても大きなことに繋がる予感がする。
嫌な予感では決してないけれど、なにか起こるような気がして落ち着かない。
「どうかみんなが無事でいられますように。」
部屋まで戻る途中、ふと月をみあげながら夢主(姉)はそっと呟いた。