第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
かもし出す雰囲気なのか、はたまた背や体格のせいなのか…男装が全く様になっていない為、ここに来てからずっと夢主(姉)は、一般隊士がいる場所は避けていた。
それは男所帯なこの場所の風紀が、著しく乱されるおそれがあると判断した、土方と山南の命令でもあった。
監察方となってからはさらに姿を見せなくなって、ここ最近は、日中どこにいるのか千鶴も夢主(妹)も知らなかったし、夜も部屋に戻らない日もあった。
「今日もお姉ちゃん帰ってこないなー」
寝る支度を終えて、灯篭の火を消そうとしていた夢主(妹)がぽつりとこぼした。
「そうだねぇ。夢主(姉)ちゃんはいつも何処で寝てるんだろう?」
そんな疑問が二人に芽生えたが、
「お姉ちゃんのことだから、適当にうまくやってるんだろうけどさっ」
という夢主(妹)の言葉に、千鶴も妙に納得してしまう為、それ以上深く考えることはなかった。
ふと、襖の外に人の気配を感じて、二人は襖を見つめる。
「寝てるかなぁ?」
襖を開けて部屋に入ってきたのは、さっきまで話題にしていた夢主(姉)だった。
「うわぁお姉ちゃん!おかえり!」
「夢主(姉)ちゃんおかえりなさい!」
暖かい二人の笑顔に迎えられて、夢主(姉)はにこりと微笑む。
「ねえねえ、夢主(妹)にちょっと聞きたいことあるんだけどさ。」
襖を閉めて、その場に立ったまま、夢主(妹)に質問をする。
「長州って何県だっけ?」
「山口県だよ。」
「山口県・・・って何弁なの?」
「んー・・・広島弁と似てるって言うよね?私もよく知らないけど」
「広島弁かぁ・・・なになにじゃけん、みたいなかんじかな?」
「たぶんそんなかんじ」
「おっけぃ!ありがとっ」
お姉ちゃん、まじめにがんばってるんだなぁ・・・
そんな質問を受けて、夢主(妹)はそう思った。
千鶴はといえば、
夢主(姉)ちゃんと夢主(妹)ちゃんって、たまに異国の言葉を話してるようなときあるなぁ・・・
県ってなんだろう・・・広島弁?おっけー?ってなんだろ・・・
そんなことを思っていたが、きっとお国の言葉なのだろうと、詮索はしなかった。