第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】
「あ!山崎さんって・・・やっぱやーめたっ」
重い空気を変えたくて、どうでもいいことを聞こうとしたけど、そんな場合じゃないみたい。
少し睨まれて、しかたなく話を始める。
「いろいろ、私には隠しているんでしょ?」
「………」
「大分…状況がわかって来ましたから。大丈夫ですよ?」
いつもの笑顔を向けながら、私は山崎さんにそう言うと、山崎さんは気まずそうに目をそらした。
「…俺に覚悟が足りないのだ。」
「覚悟?」
「監察方に引き込んだのは俺だが…君の手を汚してしまうことの覚悟が出来ない。」
切れ長で鋭くて、これでもかってくらい生真面目な瞳で私を見つめる。
「君が俺に言いたいことはわかってるつもりた。」
私としたことが…ふざけて髪の毛を触ったままの距離がなんだか近すぎて、恥ずかしくなってきた。
「君はとっくに覚悟ができているのだろうな。」
目を細めた山崎さんの顔が綺麗で・・・
なんだか切なくて、私のことをしっかり考えてくれているのだと思ったら、うれしくなってしまって・・・
山崎さんの頬を両手で包んだ。
「夢主(姉)君…」
山崎さんはそのまま目をそらさずに私を見下ろしている。
そのまま顔を近づけて…
「私、そんなにイイコじゃないですよ?」
と、言ってみた。
「ちゅってしちゃおうかなって思うくらい山崎さんが素敵に見えちゃった。」
山崎さんは真っ赤になって、悔しそうな顔をしてる。
「ねえ山崎さん?どんな仕事をしても、私は山崎さんを・・・山崎さん自身を見失わないようにする。だから…私のことも同じように思ってほしいデス。どんな仕事でも、山崎さんは誇りを持ってるんでしょ?」
笑うのを止めて真面目になった私を、山崎さんの切れ長で鋭い目が見つめてる。
そして…
「俺も、君を見失わない。どんな仕事をしても。」
と、私の頬を両手で包んだ。
愛とか恋とか・・・
きっとそんなんじゃなくって。
これからずっとこの人とは信頼しあえる予感がする。
「………しかし、俺が勘違いを起こしたら君はどうするつもりだったのか!だいたい―――」
山崎さんのお小言は続いたけれど…
特別なものをもらった気がして、私はうれしくて仕方がなかった。