第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】
「…では、よろしく頼んだ」
あまりにも簡潔に仕事内容のみを述べ、山崎さんは部屋を出ようとするから、
「山崎さん、頭に埃が…」
近づいて柔らかい髪を触る。
「ありがとう夢主(姉)君。」
にっこりと目を見て笑えば、少し照れた表情になるのだけれど…
「………その手にはのらないぞ」
すぐに跳ね返されてしまった。
「まったく君って人は。…何か話したいことがあるなら、素直にそう言えばいいじゃないか。」
別に何か話したかったっていうより…山崎さんをいじりたかっただけなんだけど…
「だいたい君は自覚が足りなすぎる。俺はもう慣れたからいいものの、他の隊士なら確実に勘違いを起こすぞ。そうなったら大変なのは君じゃないか。まったく―――」
ああ…はじまっちゃった。
最近何かしらにつけ、私の行動をこうやって怒りだす。
…まぁ確信犯なのだけど。
だってもっと私を知ってもらわないと。
・・・いろんな仕事を山崎さん一人で被ってるのを私は知ってる。
私だって大丈夫だよって伝えたい。
きっと言葉では伝わらないから…
私という人間を知ってもらわないといけない。
「山崎さんはひっかかってくれませんね~」
ふふふ、と笑いながらそう言えば、
「やはり確信犯ではないか。無自覚ではないのであろうと、最近うすうす思ってはいたのだが――」
「さあ?」
もう一度、ふふふと笑ってみる。
山崎さんからは溜息が聞こえる。
「…何か、俺に言いたいのだろう?」
何か言いたいことがあると?山崎さんには私がそう見えるのかな…
「何か思うことがあるなら、言ってくれてかまわない。」
何か…そうだなぁ…いろいろ言いたいことはあるけれど。
もっと任せて欲しいだとか…
一人で被るなとか…
言えと言われたらなんて言葉にしたらいいか迷ってしまう。
何から言おうかな。