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【薄桜鬼 トリップ】さくら玉

第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】


「あの・・・私達姉妹はここを出ても行くあてがありません。」

夢主(姉)君はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ここに来てからふた月くらい経ちましたが…妹が毎日楽しそうで、本当に嬉しいんです。それに、ここにいる以外行くあてもなく…ここを出されることもない。どうせなら私も皆さんの仲間に入りたい…そう思っていると言ったら?」

その眼差しは真剣だった。

常に笑顔を絶やさない脳天気な娘だと思えば、どうやらそうでもなかったようだ。

副長を見れば眉間の皺が濃い。



「…監察方に」


そう呟いて、自分でも驚いた。

勝手に口走るなんて有り得ない。

だが…

「夢主(姉)君を監察方に入れてはいかがでしょうか…」



ああ…言ってしまった。



「もちろん…夢主(姉)君の覚悟が本当ならの話ですが…」

副長は何か考えこんでいる。

それもそうだ、俺のような者が口出すことではない。

完全に出すぎた真似をした。

「…失礼しました。」

自分の言葉を恥じて謝れば、

「いや…」

と、副長は夢主(姉)を見据えて言う。

「・・・夢主(姉)。ここは遊び場じゃねえ。命のやりとりだってする。その覚悟はあるか?」


それは低くて重い声だった。


「…はい」

「決まりだ。おめぇを監察方に配属する。」

あまりにもあっさりしていて、言い出した俺がひょうしぬけする。


いいのか?

そんなに笑顔で覚悟を決めて。

そんな俺の考えを見抜いたように、夢主(姉)君は俺に笑顔を向ける。

「山崎さん、よろしくお願いします。」

監察方は陰だ。

決して綺麗な仕事ではない。

そのことを夢主(姉)君に伝えていないはずなのに、夢主(姉)君の顔を見れば、全てわかっているようにも思える。

ずっと感じてた何かが、解けた気がした。

ああ…そうか。


武士が、自分にしっくりくる渾身の一降に出会った時、きっとこんな感覚なのだろう。


俺は今、最強の刀に出会った気がする。

何故だか急に、どんな仕事でも熟せる気がしてきて体が奮えた。
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