第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】
一気に三人もの、正直言えば厄介者を面倒見なければいけなくなって、もうすぐ一月になる。
斬って捨てることなんて何でもないと思っていた。
新選組のためなら。近藤さんの名を世間に知らしめるためなら。
俺は鬼にでも何でもなる。
…そう、腹を括ったはずだったのにな。
「土方さん!墨が切れそうなんで買ってきま~す!」
一番初めにこいつの目を見たのは、まさに新選組の秘密を見られたあの夜。
月明りの下で、ただただ怯えてるってわけでもなさそうな、意味ありげな目をしていた。
「あの場で斬っときゃよかったかな…」
元気に走り去る夢主(妹)の後ろ姿を見ながら思わず苦笑してしまう。
正直、ここまで使えるとは思っていなかった。
屯所に引っ張ってきた次の日の質問への回答からも、賢い女だとは思った。
それでも仕事の邪魔まにしかならねえだろうと、特にこいつを使おうなんざ思ってもなかった。
何であの時、総司に任せちまわなかったのか…
「あれ?土方さん。夢主(妹)ちゃんは?」
「使いに出てる。」
「ほんと、土方さんは人使い荒いよね。せっかく一緒に遊ぼうと思ったのにさ。」
「俺が命令しなくても、ちょこまか動き廻ってるだろうが。あいつは。」
「夢主(妹)ちゃんも夢主(妹)ちゃんだよね。何も土方さんなんかに、あんなに尽くさなくてもいいのにさ」
「あれは尽くしてるっていうかーーー」
楽しんでるって感じだな。
そうだ。あいつはいつも楽しそうだ。
一時は殺されそうになった相手の命令を、何がそんなに楽しいんだか、あの深い瞳でまっすぐ受け止めやがる。
「土方さん、そんなに眉間に皺寄せるほどなら、僕が引き取るっていっつも言ってるじゃないですか。」
気付くと総司がニヤニヤと俺の顔を覗き込んでいた。
………
咄嗟に「俺が引き取る」って言っちまったときの、あの感情が蘇ってくる。
「…うるせえ。お前と夢主(妹)が一緒にいたら、お前ら二人揃っていくら命があったって足りねえじゃねえか。いつもいつもギリギリまで手合せしやがって。止める方の身にもなれ。」
違う。そんな理由じゃねえ。
「ふーん」
総司のわかってますよと言わんばかりの笑顔が癇に障る。