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【薄桜鬼 トリップ】さくら玉

第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】


屯所に帰れば、庭先で賑やかな声が聞こえた。

平助と、小姓となった夢主(妹)が稽古に励んでいる。

「しんぱっつぁん!ん?何持ってんの?」

包みを抱えた俺に、平助が饅頭か?と、寄ってくる。

「え?お饅頭?」

それにつられて夢主(妹)も寄ってきた。

こいつは不思議なもんで、あれから一月も経ってないのに前から居たみたいに溶けこんでる。

「…ちげぇよ。」

それだけ言って、その場は去った。

別に違っちゃいねぇんだけどよ…それに包みのひとつは夢主(妹)のもんなんだが…

あれこれ考えながら歩けば、例の部屋の前に着く。

うーん…

昨夜と同じく、部屋の前で立ち往生だ。

「入るぞ」と声を出そうとしたその時、

すうーーっ

と、目の前の襖が静かに開いた。

目の前に夢主(姉)の姿。

俺は不覚にも、あの日の肌が脳裏に浮かんじまった。

「あの…何か?」

そんな事は知らずに、きょとんと首をかしげる夢主(姉)に、更に体が熱くなって行く。

部屋の中から、「夢主(姉)ちゃんどうしたの?」という千鶴の声で、なんとか我に返った。

「あー…これ…」

包みを三つ、夢主(姉)に手渡すと、早くその場を去りたくなった。

「え?ありがとうございます…って、これは?」

更にきょとんと首をかしげる夢主(姉)に、

「えーと、なんだ、その…悪かったな…」

ぽりぽりと耳の後ろを掻きながら、とにかく詫びなければ…と、そんな言葉を絞り出す。

「?」

首をかしげたままの夢主(姉)に、

「じゃ、そういうことだから」

と、直視できずに目を泳がせたまんま、わけのわかんねえ事を言って立ち去った。

思ったよりも刺激が強すぎたのか、目の前で首をかしげていた夢主(姉)が、あの日の「脱いだ」姿で脳内再生される。

ばっ…かじゃねえの…俺…

そわそわとする体をどうにかしたくて、平助と夢主(妹)の稽古に混ざる事にした。

「あれ?しんぱっつぁん、顔赤くない?」

すでにそんな呼び方をして来る夢主(妹)に、うるせぇ、とひとつ返して、木刀をひたすら振った。
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