第5章 1864年 ー文久四年・元治元年ー 【前期】
うーん…
左之と平助と島原へ飲みに行って、左之が島原の姉ちゃん達に、
「こいつ、女を男だろっていいがかりつけて、脱がせたんだぜ?」
なんて、勿論前後の話なんざ話せるわけもなく、ただそれだけを、酒の肴に話しやがった。
当然姉ちゃん達からは非難轟々なわけで、まあ…姉ちゃん達は本気で非難するわけじゃなくて、笑い飛ばしてくれたんだが…、思い出したら居心地悪くて先に帰って来ちまった。
で、何故だか、夢主(姉)達の部屋の前まで来ちまった。
提灯で明るかった花街とは違って、屯所の中は暗い。
もう寝ちまってるよな…
耳を澄ませて音を確認する。
襖越しにすーすーと、誰かの寝息が聞こえて、ここが女部屋だと思い出して、酒が少し入った体はそわそわとして来る。
俺は何をやってんだ…頭をぶんぶんと振り回すと、自室に戻って寝ることにした。
夜は明けて…
今日は俺は巡察は無く、土方さんに頼まれてた仕事をしに外に用事があった。
普段はあまり目に留めない甘味屋が、やけに賑わってるのが目に付いた。
女の子達が何やら嬉しそうに包みを持っている。
店に近づくと、甘ったるい匂いが鼻を刺激してきて、思わず、けほっとむせてしまった。
「永倉さん?」
花街で世話になってる姉ちゃんが、店の前の女の子達の中にいた。
どうやら最近評判の菓子で、色と形が綺麗だとかで人気らしい。
「永倉さんにも買うて帰る仲のお人がおられるんやなぁ。妬けてしまうわ。」
なんとなくその菓子を買うための列に並んだ俺に、姉ちゃんはそんな可愛い事を言って、帰って行った。
耳の後ろあたりをぽりぽりと掻きながら、その後ろ姿を見送る。
また呑みに行くしかねぇな…
なんて、にやけていれば、菓子の列は俺の番になった。
「ひとつ…あ、いや…三つくれるか。」
甘ったるいもんが苦手な俺には縁遠いもんだな。
小さな包みに色んな色の艶々とした餡子の玉が六つ入ったそれを、あの部屋の人数分買った。