第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
「勿論です!よかったらおむすびもお持ちしましょうか?」
無駄にならずにすんだ茶に対しての喜びなのだろうか?雪村君は少し明るくそう言ってくれた。
「いや、大丈夫だ。いつもすまない。」
夕餉を逃した夢主(姉)君の為にと、いつも俺の分まで握り飯を作ってくれていた。
夢主(姉)君がいない今は、余りが出たからと理由付けして、時々差し入れてくれる。
「いえ、なんだか作らないと落ちつかなくて。食べてくださって嬉しいです。」
にこりと微笑む雪村君は、月明かりに映えて凄く綺麗だ。
とくとくとくと速くなる心臓に、自分で驚く。
「此処は冷える。移動しないか?」
少しでも沖田さんの部屋に近づけば、雪村君も勘付いてしまうかもしれない。
それを避けたくて、茶を口実に自室へ招いた。
此処ならば、何も知らずに済む。
とはいえ、夜更けに女子を自室になど警戒をされても仕方ない行動だ。
「襖は開けておく。こんな刻ですまない。」
と、襖を全開にしておく。
「お気遣いありがとうございます。山崎さんとお茶なんて、なんだか貴重です。」
と、柔らかく笑う雪村君に、なおも心拍が速くなった。
まだ冷めていない飲むのに丁度良い暖かさの茶を飲めば、雪村君の視線を感じる。
それに気がつかないふりをして、
「寒くはないか?」
と、聞いてみた。
「少し冷えますね。あ、でも大丈夫です。この寒さがなんだか心地いいので。」
そうか、と応えながら、夢主(姉)君がいつだったか持ってきて置きっぱなしになっている、「膝掛け」なる物を雪村君に渡す。
「夢主(姉)君が「この部屋寒〜い!」とかなんとか文句を言って持ってきた布切れだが、彼女は「膝掛け」と呼んでいた。名前の通り、膝あたりに掛けておけば少しは寒くないだろう。」
と、布団にしては小さくて薄い布切れのようなものを、夢主(姉)君の真似をして説明をすれば、
「山崎さん、似てます。」
と、雪村君はくすくすと笑った。
寂しそうな笑顔とは違って、自然と笑う顔は、こんなにも胸が熱くなるものなのか。
身体中の血流がどくどくと波打つような感覚に襲われているのを、どうにか目の前の雪村君に気がつかれないように、平静を全力で装った。
雪村君…君の為に出来る事は、何だろう?
此処で足止めをする事が、君の為になると信じて…。