第10章 1865年 元治二年
『山南さんが、夏くらいに平助君とこんな話をしてました。
「あの薬を飲めば私も…」
みたいな事を言った直後に、平助君の声は聞いた事もない怒った声で、
「本気でしんせんぐみに行くとかいってんのかよ」
って怒ってたの。
それ以上は聞けなくて、山南さんに他言無用って言われたんだけど…「薬」と「しんせんぐみ」気になるでしょ?
山南さんがおかしくなったら、その薬を使うかもしれなくて…それは平助君が怒るような事みたい。
でね…私はよく門限外にも外に出てたんだけど…前川邸には近づくなって、山崎さんに注意されてたの。
絶対に行くなって。
理由は…嫌な予感しかしなかったから聞かなかったけど。
そんなこんなで、これは私の中で、突っ込んで聞かなかったやばいレベルの話なので、土方さんに話すも話さないも任せまーす!』
なにこれ…お姉ちゃん爆弾抱えてた…。
手紙を読みきって、あまり勘が鋭くない私でも、これはまずいと震えてきた。
薬?しんせんぐみ?
私の知らない…あっ!あの日の…
めまぐるしい時間を過ごすうちにすっかり忘れてた。
ここに連行された理由を。
白髪で…
赤い目で…
化け物みたいだった。
確かに新選組の羽織を着ていたけれど、斎藤さんが斬った人達。
確か…「失敗」って言っていたような?
あれ?「しんせんぐみが失敗した際」みたいな事を言ってなかったっけ?
そのしんせんぐみと新選組は違うのかな?
あの化け物がしんせんぐみで…
薬…
どうしよう。
これを突き止めたら、私はここに居られるのかな?
これをばれちゃだめだから、あの日私達は殺されそうだったんだよね、きっと。
お姉ちゃん…私はこの情報をどうすればいいのさ…。
でも、山南さんがきっとまずい。
土方さんに話そうか…これを見せようか…私はどうなるんだろう?
勝手にあれこれ詮索するより、土方さんにこの手紙を見せた方がいい気がする。
そう決意して、土方さんの部屋に戻ることにした。
廊下で浴びる冬の冷たい風は、今は変に脂汗をかいてしまった体にはちょうどよくて、頭の中も少し冷静になれた。