第9章 1864年【後期】 門出の時
夢主(姉)が登りつめたのを見届け終わってから、山南は律動を早めて、自身の欲を外に出す。
「山南さん…ちょっと寝ていい?」
朦朧としていた夢主(姉)は、そう言うとすぐに眠りに落ちた。
「どうぞ…」
山南は、はき出した欲で汚してしまった部分を丁寧に拭き取ると、まだ素肌のままの夢主(姉)に、夜着と布団を掛ける。
山南にとって…獣になるなど、ただの脅しのはずだった。
少々手荒に唇を奪ったのも、乱暴に押し倒したのも…怖がらせる為だった。
そして、冗談です、と腕を解き…部屋から出す算段だった。
それが全く怯みもせずに、その先を期待されては…さすがの山南でも、理性や道徳など…全てが崩れ去ってしまう。
腕の中で、自分が触れる度に素直に反応する夢主(姉)がどうしようもなく愛おしかった。
山南は、自分の布団に無防備に眠る夢主(姉)をちらりと見やり、夜着に袖を通す。
明日から君は此処に居ない…後推ししたのは、紛れもなくこの私です。
こうなってしまえば…君を手放したく無い…そんな願望も出て来てしまいますが。
いけませんね…此処に居ない方がいい。
君は変若水の存在を知らない。
勘のいい夢主(姉)君のことですから…何かを察しているかとは思いますが。
いつか…万が一にも私が新撰組となる日が来た時…血に狂う姿を夢主(姉)君…君だけには見せたくない…そんな女々しい男心が、私にはあるようです。
山南は、胸の奥から湧き出てくるような夢主(姉)への想いを断ち切るべく、視線の先で眠る夢主(姉)に語りかけるように、そう考えを巡らせた。