第9章 1864年【後期】 門出の時
「斎藤さんが居たから、私は自分の道を見つけられました。ここを離れるのはちょっと寂しいけど、頑張りますね。」
いつものように明るい声色で、夢主(姉)は言い、そのまま空を見上げた。
「細い月も綺麗・・・あの月の光、私が生まれた時代の月と全然変わりません。」
俺も空を見上げながら、夢主(姉)の言葉を聞いた。
「今見えてる月も、明日見る月も・・・どこからでもおんなじ形に見えますよね。寂しくなったら・・・こうやって月を見ようかな。」
そう言う夢主(姉)は、やはり笑っていた。
再び抱きしめてしまいたい衝動を抑えて、昼に買った櫛を取り出した。
「これを」
差し出した櫛をそっと受け取った夢主(姉)に、今度こそ衝動が抑えられなくなっては困ると思い、
「餞別だ」
そう一言放って背を向けて歩き出す。
明日から屯所にはいない。
普段からあまり顔は合わせていなかったが、どうしようもなく寂しく思えた。
今更気が付いたこの感情をどうすることも出来ず、足早に部屋へ戻る。
ふと、部屋の前で細く光る月が見えた。
まだこの月を見ているのだろうか。
月の光と形は変わらない・・・
それならば、月を見てあんたを想おう。