第9章 1864年【後期】 門出の時
静かな境内に冷たい風が時折通り抜ける。
お日様はそろそろ見えなくなる夕方。
お稽古をしていた隊士の皆さんが屯所へ戻ったのを見計らって一人壬生寺へ。
御堂の前の階段に腰掛けて空を見上げれば、ここへ来たばかりに見上げた空と変わらない薄暗くなり始めた薄い青紫色の空があった。
江戸から昨日帰ってきた幹部さん達を含めて、久しぶりに幹部全員での会議が早朝に行われたみたい。
内容全てはわからないけど、一部は私達姉妹の話も含まれてた。
そして…私が明日から屯所を外すことになる話も。
今朝は、皆さんの気遣いで私も一緒に広間でご飯を食べた。
久しぶりに幹部さん全員のお顔を見れば、来たばかりの頃に私達へ向けられていた殺気は感じられないものの、迫力あるなぁ…なんて思ったりした。
相変わらず平助君と永倉さんはおかず争いをしているし、それを原田さんが笑っていて、斎藤さんが静かに綺麗に食べている目の前でマイペースに我関せず、といった具合の沖田さんが居て…
そんな沖田さんも近藤さんがはははと大きく笑えば少し嬉しそうに笑ったりして、眉間に皺を寄せてそろそろ一喝しそうな雰囲気の土方さんの横で無表情にお茶を啜る山南さん…
そんな皆さんを見守るようにご飯のおかわりをよそる井上さんの姿もあって…
ここ来てはじめて広間で食べたあの時の雰囲気と変わらない。
そんな中、夢主(妹)が大きな良く通る声で、
「もうご存知かと思いますが改めて。今まで黙っていてごめんなさ」
そう言いかけた時、
「許さないよ」
と、沖田さんの声が遮った。
その言葉に、広間は一瞬にして静まり返ったけど…
「百何年後だか知らないけど、そんな面白い話今まで黙ってたなんてさ。」
「そ、そうだな!ったく水くせえぞ!」
「お前さん達の身元を捜して江戸近辺を駆け回った俺の努力をどうしてくれる。」
そんな言葉を次々と放つ沖田さんも平助君も永倉さんも、皆笑ってた。