第9章 1864年【後期】 門出の時
何故その心配を副長では無く俺に言ってきたか…その意図すらも聡明で感服する。
「安心してくれ…とまでは言えないが…」
そう前置きしてから、話を続けた。
「実家絡みの知り合いに、瘡毒の薬を研究している人が居るんだ。その人に定期的に検診をして貰えるようお願いしてある。まあ、この時勢だからどうなるかはわからないが…」
新選組からはなるべく遠ざかる必要があった為に、懇意であり、信頼のおける松本良順先生には頼めない。
「なるほど…もう山崎さんは対策を練ってくれてたんですね!さすがです!ありがとうございます!」
さっきまでその瞳から矢が飛んで来そうな勢いだったが、そう言ってくれた夢主(妹)君は花が咲いたような笑顔だった。
その差の大きさに面を食らってしまったが、続けて、
「後は…特製の昏睡薬を数包渡す予定だ。」
と、伝えた。
「昏睡薬?」
「夢主(妹)君はさほど心配をしていないと言った理由にあったように、夢主(姉)君自体は何も考えていないのだろう…だが、俺はその…情交について、避けるべき相手からは避けられた方が良いと思っている。」
「なるほど!山崎さんがそこまで考えてるなら、大丈夫ですね!後はあの楽天家に少し知識を詰め込んだ方がいいかな…」
うーん、と首をかしげて考える姿は、まだ幼くも見える。
「夢主(姉)君がここを去れば、寂しくなるのではないか?」
ふと、思いついたままに言えば、
「そりゃ、寂しいです。でも、またきっと会えるし、お姉ちゃんが楽しくやれたらそれでいいかなーって。」
無理して強がって言っているわけでは無いようだ。
「良い姉妹なのだな。」
と、言えば、
「はい」
と、まるで雲ひとつない晴れの日のような笑みが返された。
「山崎さんとお姉ちゃんも良い組み合わせですね。」
立ち上がって部屋から出る直前に、夢主(妹)君はこう言った。
その言葉が嬉しい。
姉妹の強い絆に負けぬよう、日々精進しなければ、と強く誓った。