第9章 1864年【後期】 門出の時
夢主(姉)君に話を聞いたのは、日が昇り始めた早朝だった。
前日は少し遅くまで仕事をしていたためにすっかり寝ていた俺の横に、夢主(姉)君はめずらしく正座をしていた。
「ごめん。山崎さん。昨日遅かったのに起こしちゃって。」
いや、大丈夫だ。と、返事をして起き上がる。
遅くに夢主(妹)君を起こして副長の部屋まで連れて行ったから、何かがあったのだろうと思ってはいたが・・・。
「あのね。言っておくことと、報告があるの。」
いつになく真剣な面持ちな夢主(姉)君に、今度こそ何事かと、少し心拍が上がる。
話された内容は、未来から来たというなんとも現実味の無い話と、芸妓になって来る、という突拍子もないものだった。
副長から俺に話すことの許可を得てから来たと言うが、副長はこの話をどう思ったのだろうか。
夢主(姉)君は嘘を言っているとは思えない。
信じる、納得する、というよりも、そうなのかと飲み込んでから、芸妓の道に進むと言い出した事を問い詰めた。
どうしてそこまでする必要があるのか?と問えば、
「だって皆の仲間になりたいんだもん。でも武士になるとか無理だし。私に出来る事ってなんだろう?って思ったらそれが一番かなって。後は、ちょっと男装するのがもう本当に嫌。それにね…安易な考えかもしれないけど、すごく綺麗だったの。前にちらって見ただけだけど。」
夢主(姉)君の言葉は、何の飾りも建前も無く、心のままに話をしてくれているのが分かる。
「ねえ、山崎さん。山崎さんはどうして新選組に来たの?」
布団を畳む俺に、そんなことを聞いてきた。
それから、自分の生い立ちや志や、夢主(姉)君の考えている事を短い時間だったが語り合った。
こんな風に自分の話をしたのははじめてかもしれない。
志や、新選組に対する気持ちは時々話すこともあるが、こんなに掘り下げて自分の気持ちに向き合うのもはじめてだった。