第9章 1864年【後期】 門出の時
「なあ、山南さん。夢主(姉)・・・あいつを貰ってやってくれねえか?」
姉妹が出所を明かした次の日、土方からそんなことを山南は言われていた。
勿論、山南自身でもそれを考えていなかったわけではない。
夢主(姉)から話を聞いた後、かなりの時間をそのことを考えることに使った。
しかし、時勢と立場がその決断の邪魔をした。
これから参謀として同胞の伊東が来る。
刀が持てない上に、嫁など暢気に貰っている場合ではない。
そう結論するしかなかったのだ。
「おい近藤さん!あんたはどう思ってんだ?」
そして問い詰める先が土方から、先ほどから浮かない表情の近藤へ向く。
近藤はこの件に関して、当初は大反対をしていた。
京から戻って間もなく、土方と山南から話を聞いたときは、日頃穏やかな近藤でも声を荒げて反対をした。
そんなことをしなくても、と、新選組から出てどこかへ嫁いでもいいと、良い縁談を持ってきてやる!とも言った。
しかし、夢主(姉)本人からの話を聞いてしまえば、反対をすることができなくなってしまった。
ここはその志に敬意を払って送り出そう。
そう決めたはずだったが、やはり幹部達の自分と同じ反応に心が痛む。
だが・・・夢主(姉)君の覚悟を見守ろうではないか。
そう心に決めたことを声に乗せようとした時、
「・・・出過ぎた発言になりますが、失礼します。」
と、広間の隅に居た山崎の声が聞こえた。
「これは夢主(姉)君自ら望んだ事。局長達が押し付けた役ではありません。」
「おい山崎」
土方の制止が入ったが、山崎は止めることなく続けた。