第9章 1864年【後期】 門出の時
「おいおい土方さんよ・・・そりゃ正気か?」
土方が放った言葉に、永倉が少々声を荒げる。
新規隊士を募る為に江戸へ出ていた永倉達は、新入隊士よりも一足先に京へ戻って来た次の日の早朝。
広間では久しぶりにいつもの顔ぶれでの幹部会議が開かれていた。
「へぇ。あの子ならなんとかなるんじゃない?少なくとも此処にいるよりは白粉塗ってた方が似合ってそうだし。」
「そういう問題なのか?確かにうまくやりそうな気はするけど。島原にってことは・・・その、そういうこともあるだろうし。それによ?それって女の人生を新選組の為に使っちまうようなもんだよな・・・」
いつもの調子で特に気にもならない、といった様子の沖田と違い、藤堂は険しい表情だ。
「おい土方さん。なんとか言ってくれよ。俺は島原の酒もお姉ちゃんも大好きだが・・・仲間が行くとなったら話は別だ。」
「新八の言うとおりだ。俺らにとったらあいつは妹みてえなもんだからな。」
永倉や藤堂ほど声を荒げることはなかったが、とにかく何がどうしてそうなったか、その説明は欲しいと原田は土方に鋭い視線を投げる。
夢主(姉)を島原へやる、集まってすぐに放たれた土方のその一言に、呼吸の音すら聞こえないほどに部屋は一瞬静まりかえり、その直後から幹部達の言葉が飛び交った。
土方はそれらを黙って聞いていたが、幹部達が何か言えと視線を向けて黙り込むと、
「もう決まったことだ。明日からあいつはしばらく屯所には戻らねぇ。」
と、低い声で放った。
「明日!?」
急な決定と、その期日までが急なことに幹部達は声を大きくして驚く。
声を更に荒げる幹部達の中、斎藤は表情こそ変えることはなかったが、土方と同じく黙ったままの山南に視線を向けた。
あの夜・・・山南の腕の中にいる夢主(姉)は、いつになく気を許していた。
恋中であるのだろうか?
何故大切なはずの恋人をわざわざ危険に晒すのか・・・
山南の表情からは全く読み取れなかった。