第8章 1864年【後期】決意の時
夢主(姉)は、屋根裏の一角にある、隙間から空が見える狭い一角に、一人佇んでいた。
この場所には以前大きなねずみが居て、埃もすごかったのだが、ある日突然ねずみの姿も無く、埃も無くなっていた。
ああ、山崎さんの仕業だ・・・
すぐにそう気が付いて、お礼を言えば、肯定するわけでも否定するわけでもなく、山崎は少し微笑んだだけだった。
それ以来、仕事が終われば、部屋ではなくこの場所に来ることの方が多かったかもしれない。
ぼーっと、月を見上げれば、頭の中をからっぽにすることが出来た。
一人で居る事が落ち着くのは、ずっと・・・疑われてるのが辛かったからだと思い込んでたけど・・・きっと一人じゃないって知っているからなんだろうな・・・
思えば、観察方となって以来、どんな時でも山崎は自分を疑うそぶりを見せなかった。
斎藤は泣けと言ってくれたし、普段は冷たい山南も、なんだかやたらと脅す沖田も、抱きしめてくれた腕の中はとても暖かかった。
壁を作ったのは自分だったのかもしれない・・・そんなことを、月を見上げながら漠然と思った。
そういえば、潜伏している店の前を、永倉や原田はわざと大きな声で何かを話しながら通ったりする。
普段あまり会えなくなった夢主(妹)の様子を、「今日も元気だぞ」と、藤堂は顔を合わせた時に必ず教えてくれた。
ああ皆に見守られていたんだ、と、うぬぼれかもしれないがそう思った。
だったら、なおさら仲間に入りたい。
命をかけて戦う皆と肩を並べたい。
そんな思いがこみあげてきた。
部屋へ戻ると、夢主(妹)と千鶴が手をつないで眠っていた。
布団の外へ出て冷えている二人の手を、布団の中へしまう。
まだ、夢主(姉)は決意を夢主(妹)に話していない。
幼い頃からずっと二人で居た。
離れても・・・大丈夫だよね?
寝顔を見ながら夢主(姉)はそう呟くと、途端に寂しさで押しつぶされそうになる。
それでも・・・夢主(姉)は、自身の決めた方向に進む事を決めた。