第8章 1864年【後期】決意の時
「…山南さん、あんた本気で言ってんのか?」
新選組の副長と総長…二人は向かい合って座ったまま、しばらく沈黙を続けていた。
そんな沈黙を破って、土方がそう切り出せば、
「ええ、もちろん。これは、新選組にとって非常に都合の良いことですので。」
と、表情を変えずに山南は応えた。
そう言われてしまえば、土方も黙るしかなくなる。
俺は…新選組の名を世に知らしめて近藤さんを本来あるべき地位につける…それだけで今も昔も走ってる…だが…
「あいつをここに繋いでるのは俺達だ。そうでなきゃ今頃相応の相手でも見つけて嫁ぐ準備でもしててもおかしかねえ年頃だ。俺達の…新選組の為にあいつの人生を使っちまうっつーのは…武士のすることじゃねぇだろ。」
「…相変わらず…貴方は鬼にはなりきれませんね。」
薄茶の鋭い瞳は、睨むでもなく…静かに土方を見つめている。
「…あんたはそれでいいのか。」
土方の眼には、山南が夢主(姉)に特別な感情を抱いていると見える。
だからこそ、「夢主(姉)君を島原に…」と言い出した山南の言葉が信じられなかった。
いくら新選組の為とはいえ…もしも夢主(妹)にその役がまわることがあれば、俺はなりふり構わず全力で止めちまう。
鬼にはなりきれねぇ、か。確かに甘めぇな。
「時勢と立場が違えば…」
そう言いかけて、山南は目をつぶり頭を振った。
「夢主(姉)君がそうしたいというならば、我々はそこまで気負わなくても良いのでしょう。それに…」
彼女は居場所を探しているように思えます。
監査方という立場はあれど、一般隊士の手前表立って屯所を歩くこともできない。
女性であることもできず、武人として刀を持つことにもそのつもりはない…
中途半端でいたたまれないのでしょう。
願っても動いてくれない左腕を持つ私からすれば、うらやましい悩みですが…
自分の立ち位置を探す気持ちは私も同じですから…ね。