第8章 1864年【後期】決意の時
「さて…話を戻します。私は反対しません。正式に決まれば、力を貸しましょう。…あなたが進もうとしている道は、決して甘いものでははありませんよ?」
念を押すように、さらに厳しい声色でそう言う山南さんに、
「行くからには本気で行きます。」
負けじと低い声でこたえる。
「ひとつ…お聞きしたいことがあります。それは、副長に報告をした後に致しましょう。私はあなたを信用していますが…」
山南さんの瞳は冷たいものに変わり、思わず背筋が凍りつく。
「疑ってもいます。」
「…はい。」
もうすぐここへ来て一年になるけれど・・・手放しで信用されてるとは思わない。
信用してほしいし未だに疑われるのは少し悲しいことだけれど…
深く関わって生活をしているうちに、そんな単純なお人よしでは新選組は成り立たないだろうな、と考えるようになった。
空っぽになった山南さんの湯呑みをお盆に乗せて、私は立ち上がる。
「…ねえ山南さん。私でよかったら愚痴聞きますからね?」
襖を開ける前に、振り返ってそう言う私に、言葉ではなく、少しだけ寂しそうな微笑みが返ってきた。
「薬」のことが気になるけれど、やっぱり聞けない。
山南さんが見せた微笑みが脳裏に残ってしまって、胸の奥が苦しくてしかたなかった。