第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
平助と新八が江戸に行っちまうと、屯所内は静かだった。
あいつらどんだけ煩かったんだ?と、少し笑えて来る。
庭先で一人素振りをする夢主(妹)が目に入って、
「おつかれさん。」
と、声をかければ、
「あ、佐之さん。おつかれさまです」
と、明るい声が返って来た。
毎日のように平助や新八と稽古をしていた夢主(妹)は、稽古相手が居なくて寂しいと言う。
そうだろうな。
あんなにぎやかな連中と四六時中いりゃあ、今の静けさが不気味なもんだ。
そんな話をすれば、楽しそうに笑った。
平助の馬鹿な話や、新八の島原でのやらかし話なんかを面白おかしく話してやると、げらげらと声をあげて笑う。
最近、そうやって楽しそうにしてなかったんじゃないか?
相変わらず土方さんの使いでばたばたと忙しそうにしてるが・・・
ふと見かけたときにはいつも神妙な顔で遠くを見てたりするよな?
けらけらと笑う夢主(妹)は、まだまだあどけないガキだな・・・なんて思ってたんだが・・・
あれからもうすぐ一年か。
少し日が落ち初めて肌寒くなってきた。屯所も屋根に鴉がとまりはじめてる。
「なあ夢主(妹)、今日島原にでも飲みに行くか?」
「島原???行ってみたいです!!・・・けど・・・」
「さすがに土方さんが許可ださねえか。」
絶対だめって言われますね~、なんて少しはにかんで笑ってる。
その表情がなんとも艶っぽくて、ああ、土方さんの話をするときはこんな顔になるのか・・・なんて、目を細めて夢主(妹)の表情を見つめちまった。
「土方さんも島原とか・・・」
島原っていう場所なんだか言葉なんだかで、何かを思っちまったんだろうな。
ったく・・・土方さんもいつの間にこんなになってんだ?
多分、女の影を気にしてるんだろう夢主(妹)に、
「いや、土方さんはあんまり呑めないからな。最近は会津の連中との会合くらいじゃねえか?」
と、言ってやる。
ちょっと前までそれなりだったぜ?なんて言えるわけねえな。
「そうかぁ・・・」
と呟いた夢主(妹)の嬉しそうな顔は、一端の女の顔だった。