第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
新選組を嫌っているお店の女将さんの手前、私達を嫌がるそぶりを見せる夢主(姉)ちゃんに、いつもの調子でにこにこと「おすすめはなに?」と話かける沖田さん。
だんだん夢主(姉)ちゃんの表情が険しくなって睨みはじめる夢主(姉)ちゃんと、普通に話す沖田さん、そして本当にはらはらしているのであろうお店の女将さんの様子が可笑しくて、私はしばらく笑いをこらえるのが大変だった。
「沖田さんいいんですか?夢主(姉)ちゃん、最後の方はきっと本当に怒ってましたよ?」
「あはは。酷い言われようだったなぁ僕。おもしろかったでしょ?」
「はい。私も夢主(姉)ちゃんみたいに潜入してみたいなぁ。」
沖田さんと歩く屯所への帰り道。
昨日は足が重くて仕方なかったのだけど、今日はとっても楽しかった。
「千鶴ちゃんには無理かな。君、全部顔に出ちゃうし。それに…」
沖田さんは立ち止まって、私の方を向くと、手を伸ばして私の顎にそっと触れた。
「あんな風に嘘が上手な姿は見たくない。」
沖田さんはそう言うと、目を細めて…私ではなくて、なんだか遠くを見ていた。
そのお顔はなんだか、とってもさびしそうな…苦しそうなもので、少し胸がずきりと痛くて…でもすごくドキドキした。
そして、あはは、どきどきさせちゃったみたいだね、とけらけら笑いながら歩き始める。
私にお芝居は無理かもしれないけれど…どきどきしたことまで顔に出てしまったのかな?と思うと、恥ずかしくて仕方ない。
しばらく沖田さんの顔をまともに見れないまま、屯所への道を歩いた。