第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
ふと、ぽんと頭の上に手が置かれた。
「女物の着物もそうだが…言葉も違和感無かったぜ?ああやって普通の町娘の姿を見てると、お前も普通の年頃の女なんだなぁって実感する。あんまり無理するなよ?そしてあんまり考えこむんじゃねえよ?」
そう言う原田さんはとても優しい目をしていて、
「ありがとうございます」
そう言うのが精一杯なほどなんだか見惚れてしまった。
「しっかし…あいつに女の口説き方を教えてやらないとな」
そう笑いながら話す原田さんに、
「あれはあれでかわいくっていいと思います…相手が私じゃなければ」
「ははは。言うじゃねぇか。ま、お前さんを落とすには随分と骨が折れそうだ。」
顎をさすりながらニヤリとした原田さんの顔はなんだか色っぽい。
「…原田さんもね?もてる男を落とすのは大変そうです」
しばらく笑い合っていたら、なんだか気が晴れた。
「たまにはそうやって笑えよ?馬鹿な話にはつきあってやるからよ。ま、お前は可愛い妹みてえなもんだ。兄貴に気を使う必要なんてねえからな?」
あははは、と笑う私に、原田さんは頭をくしゃくしゃと撫でて言う。
「笑えよ」なんて、いつも笑顔でいるはずの私に言う人なんていないのに。
原田さんの言葉がうれしくて、私はこれからも頑張ろう、と素直に思えた。
折れそうになったら助けてくれる人がいる。
頼もしいお兄ちゃんが出来たなぁ。
私の進む道…まだわからないけど、ここの人達が好きだから、やれることをするんだ。
それでいい。
部屋に戻って空を見上げれば朧月。
明日も雨降るかも…
私はぼんやりと光る朧月をしばらく見つめた。