第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
夏の夜は襖を締め切った部屋で眠るには、暑くてやりきれない。
夜着に着替えて、眠る準備をすませた夢主(妹)と千鶴は、襖を開けて、部屋の空気を入れ替えていた。
このまま襖を開けたまま眠りたい衝動に駆られるが、さすがに男所帯のこの屯所。
そんなことをしたら、山崎あたりにすぐに見つかって、説教が始まるに違い無い。
「暑いね~」
夢主(妹)は両手をあげて伸びをしてから、さあ寝よう、と布団へ寝転がる。
昼の巡察から帰って来てから、千鶴の様子がなんだかおかしい。
表情がなんだか浮かないし、元気がない。
そんな千鶴の様子が気になりつつも、その理由を聞くかどうか迷っていた夢主(妹)は、意を決して聞いてみることにした。
「ねえ千鶴?どうしたの?なんだか元気がないけど。」
布団にごろりとうつ伏せになって、両手に顎をのせた体勢で、なるべく軽い雰囲気を出しながら、夢主(妹)は千鶴に話しかけた。
「元気ないかな?」
「うん。なんだか表情が暗いっていうか・・・なんかあった?私でよかったら話してみない?」
千鶴は少し考えてから、ぽつりぽつりと話を始めた。
「今日の昼の巡察で、原田さんと永倉さんが話していたのだけどね。長州の人達が京に集まってきていて、京が戦火に巻き込まれる・・・みたいなことをおっしゃってて・・・」
「・・・」
「町の人達の様子が確かにおかしくて、お引越しの準備をしてたりとか。それにね・・・」
静かな部屋に、鳴き始めのひぐらしの声が聞こえる。
「京の皆さんは、やっぱり新選組に対して冷ややかで・・・」
「・・・」
「でも、永倉さんは、それをあっさり笑い飛ばしてらっしゃって、原田さんも俺達は俺達の仕事をするって・・・お二人共不満はいっさいおっしゃらなかった。」
「・・・」
「だからね、長州の人達が何かを起こしても、私も出来る事はしたいって思うの。だから、怖いだなんて思ってては駄目だなって。父様も見つかってないし、弱気になってる暇はないって・・・」
夢主(妹)は、無言で千鶴の話を聞いていた。
頭の中では、知りうる史実情報と、年表データが駆け巡っているのだろう。