第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「何故…新選組に命をかける?あんたのことを拘束したのは俺達だ。今更あんたの生き方にどうこう言える立場ではないことは承知。ただ…その志はなんだ?」
「…」
月明かりに照らされた夢主(姉)の顔は、いつものように微笑んではいるが、少し困っているようにも見えた。
俺はこれを聞いてどうするつもりだったのか。
聞いたところで俺に関係などあるまい。
「すまない…無粋なことを聞いた。忘れてくれ。」
危ないから早く戻れ、と付け足して、俺は屯所へ戻った。
副長へ報告をして自室へ戻る。
自室で一人になれば、再び夢主(姉)のことが浮かぶ。
何故俺は気になるのか。
いつだったか、一人ひそかに泣いていた夢主(姉)の姿を見た時も、俺の前で泣いてほしいと思った。
俺はあの笑みに隠す心内を俺に明かして欲しい…などと思っているのか?
そうだとすれば、それは何故か。
いくら考えても答えが出ぬまま、刻は過ぎていった。
よく眠れぬまま迎えた夜明けに、まだ薄暗い中、頭を冷やそうと井戸へ行くと、ここで鉢合わせるには珍しい夢主(姉)の姿があった。
俺に気がつき、
「おはようございます」
と、屈託のない笑顔を俺に向けて来る。
昨晩からずっと考えていた人物を目の前に、戸惑う心を隠して、手桶を受け取った。
受け取る際にちらりと見えた夢主(姉)の手首は、少し赤い。
あれだけの力で掴んだだけで、赤く跡を残してしまうものなのか…
再び脳内に広がった考え事に、俺はその日一日悩まされ続けることになるのだった。