第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
なんとか精神を集中させて、沖田と共に刀の切っ先を浪士へ向ける。
二つの刀を向けられているというのに、浪士は表情ひとつ変えず、
「愚かな…血を吐いた犬と……」
そう言いながら、ちらりと夢主(妹)に目を向け、つまらなそうにため息をついた。
やばい。
怖い。
湧き上がる震えを抑えるように、ぎゅうと刀を握りしめると、夢主(妹)はなおも踏み込む間合いを探していた。
「…ふん。いずれまた会うだろう。」
唐突に、すっ――と刀を納めた浪士は、窓から外に飛び出して行った。
「え?」
あまりにも呆気なく去られてしまい、恐怖からの解放と共に脱力してしまう。
ガタッ
沖田が膝から崩れ、千鶴が名前を呼びながら駆け寄る。
…そうだ沖田さん!
沖田の方を見ると、喀血した血が、彼の口元から流れていた。
…なんで忘れてたんだろう。
本で読むかぎり、池田屋で沖田さんは喀血して…そして…
そして…
いつか結核で死んじゃうんだ…
沖田の体を支えて、必死で彼の名を呼んでいる千鶴の横で、夢主(妹)は呆然と立ち尽くしていた。
「沖田さんっ!!!!!」
千鶴の声が更に大きくなった時、夢主(妹)は我にかえって沖田の方を見ると…
「夢主(妹)ちゃん!沖田さんがっ」
沖田はその場に倒れていた。
「総司!」
倒れた沖田に戸惑う千鶴と夢主(妹)の元に、斎藤の声が聞こえた。
「沖田さんが!沖田さんがっ」
千鶴は斎藤に沖田の様子を伝える。
「落ち着け。総司は俺が運ぶ。あんたは外にいる負傷者の手当てをしてやってくれ」
斎藤は冷静な声色で千鶴にそう言うと、夢主(妹)に視線を移した。
そしてちらりとほんの一瞬、左手に持たれた血の付着した刀を見ると、すぐに視線を戻して、
「気を抜くな。下にはまだ浪士は残っている。雪村一人では危険だ…あんたが一緒に行け」
と、夢主(妹)に指示を出す。
千鶴と夢主(妹)は顔を見合わせて頷きあうと、負傷者の元まで急いだ。