第3章 私のヒーロー【チョロ松】
その日の夕方、仕事が終わる前に三階に使い終わった資料をしまいに行くよう言われて、私は三階に居た。
三階は二階に置ききれない資料や接客や会議、接待なんかに使うための臨時のスペースがある。
資料の棚の並ぶ一番奥に向かい、資料をしまう。
その時、扉の開閉の音が聞こえて、貼ってきた足跡がこちらに向かってきた。
(チョロ松君だったらな・・・)
どんなに叶わぬ恋だと分かっていても、ついついチョロ松君の姿をそこに見ようとする自分にいつの間にこんなに好きになったのかと問うけど答えは出ない。
そんなことを考えていると、足跡はいつのまにか自分の背後に迫っていて、笑顔で振り向く。
振り向くと、そこに居たのはチョロ松君・・・ではなくて社長の息子の木村さんだった。
木村さんと話したことはない。
ただ、話には聞いていて、その内容は仕事はしないけど威張り散らしているとか部下いびりがひどいとかあまりいい話は聞かなかったから少し緊張しながら問う。
「あ、あの・・・何か用でーーーーーーっ!?」
言葉の途中で突然、手で口を塞がれて、ガタンと資料のぎっちり詰まった棚に押し付けられた。
「んっ、んんん!!!」
「声を出すな!それと、この事を他言したらクビにしてやるからな?」
分かったかと睨みつけられて慌てて首を縦に振った。
やっと決まった私の就職を喜んでくれた両親の顔を思い出すとそうするしかなかった。
ニターっと口端を吊り上げた木村さんの顔が私の首筋に埋まって、彼の舌が私の首筋を這った。
そして、口を塞いでいるのと逆の手で胸をもみし抱かれる。
突然の事で動転したのと怖いのとで涙が溢れた。
その時、再びカチャリと扉の音がした。
「ちゃん?」
チョロ松君だった。
すると、木村さんは小さく舌打ちをして、黙っていろと自分の口に人差し指を当てて見せる。
私が再度了承するのを確認すると顎をしゃくって、行けと合図された。
私は何事もなかったかの様にチョロ松君の前に出ていく。
・・・もちろん、涙も拭って。
「あ、ちゃん、ここに居たんだね?もう上がらないと、時間だよ!まだやることあるなら手伝うよ?」
そう言って彼は優しい笑顔を私に向ける。