第3章 私のヒーロー【チョロ松】
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新しい制服に身を包み、ナチュラルメイクに長い髪を一つにまとめて鏡の前で最終チェックをする。
私は先日、小さな会社ではあるけれどようやく就職が決定して、今日が初出勤の日になる。
「よしっ!」
笑顔もばっちり。
カバンを取って低めのヒールを履いて高鳴る胸を押さえて出勤した。
最寄りの駅から電車で三駅。
そこからまた少し歩くと小さなビルが見えてくる。
そのビルの二階と三階とが今日から私が働く赤塚不動産だ。
事務所の扉の前で大きく深呼吸をして・・・
(スマイル、スマイル!)
と、扉に手をかけた時だった。
「お、おはようございます!」
「きゃあっ!!」
緊張していたせいでオーバーに驚いてしまった。
振り向くとそこには深緑の縁の眼鏡をかけた男の人が立っていて、彼もまた私の声にオーバーに驚いて声を上げた。
「っどぅわああああ!!」
二人で赤面しながら謝りあう。
「ごめんなさいっ!急に大声出してしまって!」
「こ、ここここちらこそ、急に声かけて申し訳ないですっ!!」
裏が得る声でしどろもどろに言い合う自分たちに思わず笑いがこみ上げる。
「ぷはっ、ご、めんなさい・・・なんか可笑しくなっちゃって」
「ははは、ぼ、僕もです」
「遅れちゃいけないですし、入りましょう?」
「そうですね」
私は再び扉に手をかけて深呼吸した。
眼鏡の彼も私の後ろで深呼吸しているようだった。
部屋に入ると社長さんがすでに待機していて、私達をすぐに出迎えてくれた。
「おはよう!・・・あれ?一緒に来たんだ?知り合い?」
「え?」
何の事だろうかと首をかしげて、たった今ここで会ったばかりだということを説明した。
「君達は今日から唯一の同僚同士だ、始業時間までもう少しあるからそれまでそこの来客用の椅子にでも座って自己紹介しあっておいてくれ」
「「はい」」
そこで初めて隣にいる彼が同じく今日から入社する人なんだと知った。
視線が合うと彼は頬を染めて、でもにっこりと微笑んでくれた。
優しい人が同僚でよかった。
私も微笑み返した。
そして案内された来客用の椅子に腰を掛ける。
テーブルを挟んで向かい側に彼が座った。