第1章 明暗
「………ぇ?」
あれ?と思った時にはもう既に遅かった。浮遊感が体を包む。その落下する感覚。
すべてがあやふやで、不安定。
「きゃああああ!!」
ーー『あまり身を乗り出さないでよ?』
そう言ったのは彼だったか。
その彼に……文字通り突き落とされて、私の瞳は驚愕に染まる。
染まって、極わずかな間で
ど、う、し、て
と言葉を紡いだ。
そのすぐ後に、
どさ
という鈍い音と、衝撃と、そしてこの世の全ての音が響いた。
まだ、花火は終わっていない。
色鮮やかに彩られた宵闇の中で、彼の言葉だけがポツリと残された。
「大好きだから、殺したんだよ」
私にはもう彼の声は届かない。
紅に花を咲かせた夜空と同じく、土とコンクリートの上には、緋色の雫が滴っていた。
おわり