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君が笑う、その時まで

第16章 さりげない優しさ


◆◇黄瀬視点

「はい、これ」

 突然声が降ってきた。
 顔を上げるとまず見えたのは彼女の顔で、やがて彼女が差し出す折りたたみ傘へと自然に視線がシフトしていった。

 これってもしかして……伊織ちゃんの傘を借りてもいいって事ッスか?

黄「いいんスか?本当に……?」

伊織「雨に濡れて風邪を引いたら困るのは黄瀬君だけじゃないからね。
 これからなんでしょ?インターハイ予選」

 その時の彼女はさっきまでのしたり顔とはまるで違う、真剣な眼差しをしていた。

 海常高校バスケットボール部の一選手としての俺を――モデルとしてではない、素のままの「黄瀬涼太」として見ていてくれるのが、正直驚いた。

 ただただ嬉しかった。
 
黄「伊織ちゃん、ありがとッス!!」

 俺は嬉しくて、勢いのあまり彼女に抱きついた。

 不思議とこのままでいたいと思うなんて……俺って変だ。

 女の子だから優しくしたいではなく。
 彼女だから。

 単純な興味ではなく、もしかしたらそれは――

笠「――って、いつまで抱きついてんだよ!!」
 はっと我に返った俺に、笠松先輩の蹴りがずかずかと入ってきた。
 相変わらず手厳しッスね……。
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