第7章 屋上ランデヴー
◆◇黒子視点
彼女は頑(かたく)なに口を閉ざしていましたが、やがてゆっくりと息を吐き切った後で僕を見て小さく笑いました。
それはむしろ寂しげで、彼女がひとり背負う痛みの深さを改めて感じました。
それはまるで昔の僕自身を見ているようで、やるせなさと同時に悔しさがこみ上げてきます。
「伊織さんはもう少し人を頼りにしてください。
僕にできることがあれば何でも言っていいんですから」
「んー……気が向いたらね」
「っ…伊織さん!!!」
彼女の背負っているものを僕にも分けてほしい。
そんな僕の願いを貴女はいつも軽々しくはねのけてしまう。
それがどんなに歯痒(はがゆ)くて仕方ないことだろう。
僕の言葉だけでは彼女を救えない。
真に彼女を救うには誰かの言葉や思いやり以上に彼女自身が行動を起こすしかないのだと、変わり映えの無い問答の中で気付かされる度に僕は僕自身の非力さが心底嫌になります。
「人に相談するのもバスケをするのも、所詮あっしの気分次第ってこと。
そんなに努力しても無駄だよ、黒子」
そういって彼女はにししと笑ってみせた。
それは他人の心遣いを一蹴するほど清々しくて、まるで狐につままれたような心地にしかなりません。
人を嘲(あざけ)り、卑下するその態度は当然ながら多くの人を不快にさせる。
現に火神くんや先輩たちはかなりご立腹でした。
確かに昨日の態度は悪態以外の何物でも無く、火神くんが掴みかかるのも無理はないと思います。
けれども、僕はどうしても彼女を放っておけません。
僕は何食わぬ顔で踵を返した彼女に向かって声を張り上げた。
「それでも僕は待っています!
――あの時の『約束』を果たさせてください!」
僕の声が、思いが通じたかどうかは、はっきりとはわかりません。
彼女は顔を向けることなく遠ざかり、やがてその姿は校舎の中に消えていった……。