第19章 高鳴る(黄瀬視点)
彼女――大前伊織ちゃんは普段からよく笑う。
この間の練習試合で初めて会った時も、今日たまたま試合会場で会った時も彼女は笑って俺を迎えてくれた。
俺には正直その表情がツクリモノに見えた。
それは普段俺がファンの子たちに振りまくような愛想のいい顔とは似ているようで似つかない――むしろ俺よりも得体の知れない、掴みどころの無い表情だった。
そして今日、彼女の傍にいて気付いたことがある。
彼女は笑っているようでその実本心から笑うことは滅多にない。
俺にはどうして彼女が頑なに本心を見せなくなってしまったのかなんて理由は分からない。
それでも、ふとした時に彼女は確かに見せてくれる。
優しさも、本気で心配していることも、ひとり辛そうに耐えていることも。
その時々で感じる胸の高鳴り。
笠松さんが唯一普通に接している女の子だからと言う理由で興味が湧いたのに、気が付けばこんなにも君の事を想っているだなんて。
笠「オイ黄瀬ー、置いてくぞ」
黄「あっ、待ってくださいよー!」
この気持ちを口にするのはまだ止そう。