第7章 忍足先輩とキャプテン
2年に上がると2人の身長は私を軽く超えてしまった。
少しの悔しさと、頼もしさ。
先輩の引退にともなって、キャプテンを引き継いだ。
「大変なことが多いと思うけど、これからもテニス部を支えてね」
身長が175もある前キャプテンは、さらに前の先輩と付き合っていたらしい。
「はい。先輩が心配しないで済むように、きちんとマネージャーをまとめていきます」
答えたけど、マネージャーとしてきちんと仕事が出来る子は本当に少ない。
それでもやらなきゃいけない。
緊張と寂しさと心細さで、鼻の奥がツンとする。
「泣かないで」
キャプテンが困ったように笑う。
「はい…」
震える声で返事をすると、ハンカチで涙をぬぐってくれた。
「由莉奈なら大丈夫。私と同じようにしてごらん。どうしようもないマネージャーもいるかもしれないけど、ちゃんと仕事してくれる子も、毎年必ずいるから。由莉奈みたいに」
「ふぁい…」
涙があふれてくる。
自分のハンカチをら取り出そうとポケットを探るけど、見つからない。
「ぷ」
ハンカチを押し付けられて息が止まる。
「なんちゅー顔してんねん」
高い視線。丸眼鏡の下の意地悪そうな笑顔。
「おひたりぃ〜」
ハンカチを受け取り文句を言おうと口を開いたけど、また涙がぼろぼろと落ちた。
「はっお前、それは、跡部に怒られそうな顔やなぁ」
「ど、どう、いう意味よぉ…」
しゃくり上げてしまい上手く話せない。
「忍足、由莉奈のことよろしくね」
「テニス部一の美人がいなくなるんは惜しいっすわ」
「その地位も由莉奈に譲るわ」
にっこり笑顔を見せた先輩も、目尻に少し涙を溜めていた。
「じゃあ、新テニス部一の美人、俺と付き合ってくれる?」
「…………………は?」
何を言ったか分からないまま、ハンカチを落としそうになる。
「………………え?」
「聞こえへんかった?」
忍足が笑う。
「…………………え?」
「好きや。付き合って」
「ええ!?」
「そない驚かんでもええやんか」
「忍足はもっとロマンティックに告白してあげなさいよ」
「いや、言いたくなってもうたんです」
「そっか」
キャプテンがにやにやする。
「え?」
「自分、さっきから『え』しか言うてへんで」
いや、だって…え?