第3章 過去
「か…髪もそんな伸ばして、チャラチャラしちゃってさ」
これ見てまだそんなアホな文句を言えるなんて、なかなか肝が据わってますね。
「鳳くんや日吉くんにベタベタ付き纏って、風紀を乱してるわ」
続いて別の先輩が言う。
「あの2人は幼稚舎からの友人です」
そこまで言ったところで先輩達の後ろに跡部部長が見えた。こちらに向かって来ている。場所はまだ少し遠い。
どこから見てたのかな。この状況、私悪者かも。
抑えつけている先輩のジャージのポケットに手を突っ込むと、案の定ハサミが入っていた。
やっぱりね。2、3度シャキシャキと音を立ててハサミを開閉させると、4人が表情が凍りついた。
足蹴にしている先輩は今にも泣き出しそうだった。
「お……お願い…や、やめて…」
「何をですか?」
私、多分いま笑ってる。眼鏡越しに。
ハサミを振り上げると4人が「きゃあああっ」と悲鳴を上げて目を閉じた。
私は自分のポニーテールを、ヘアゴムの根元からじゃきじゃきと切り落とした。よく切れる。まぁ、多分私の髪を切るために用意された物だから、当たり前か。
恐る恐る目を開けた先輩達が私を見る。
「これで良いですか?」
足蹴にした先輩は、失禁してしまっていた。
あーあ。
リーダー格の先輩が何とか我に返ったようで、キッと目に力を入れた。
「アンタが生意気過ぎるから、よ。ブスが…出しゃばってるのはみっともないの…よ…」
私が眼鏡を外すと先輩の震えた言葉尻が小さくなった。
眼鏡を外すと表情がなくなる癖は治っていない。
「美人なら、良いんですね?」
氷の女王で、構わない。
息を飲む先輩達を見回して、良いんですよね?と言って、笑顔を作ろうとしたけれど、上手くできず、たぶん真顔のままだから凄んだみたいになってしまった。
一呼吸置いて、先輩から脚を退けた。べそをかく先輩のジャージのズボンは濡れてしまっている。汚い。
「もう良いですか?まだ部活中なので、ちゃんと仕事してくださいね」
そう言って先輩の間を割って通り抜けた。
もう誰も何も言わなかった。