第2章 泳ぐのは『好き』ですか?
短く切った髪にさっと指を通す。
少し大きなズボンに足を通し、
大きめのシャツと大きめのジャケットに腕を通す。
「あのさ、母さん、制服めちゃくちゃデカいんだけど…。」
「いいのよ!楓!男の子は高校生から身長が伸びるんだから!ねぇ!お父さん!」
「あぁ。」
少し前まで住んでいた都会を離れ、
私は小さな海辺の町へと越してきた。
母の精神病の治療のためだ。
「楓!忘れ物はない?」
「うん。ないよ。母さん。」
母は私のネクタイをきちんと調えると、
笑顔でお弁当箱を渡す。
「ありがとう。母さん。行って来るよ。」
「えぇ。いってらっしゃい。楓。」
「俺も、もう出るよ。」
私は父と二人で家を出る。
振り返れば母が嬉しそうに手を振って見送っている。