第4章 期待の大型新人
「いってきまーす!」
いつもより少し早く家を出る。
「あら!楓!早いのね!」
お母さんが慌てて玄関の方へやって来る。
「うん!今日から部員勧誘するからね!」
私は靴に足をねじ込むと振り返り真っ直ぐお母さんを見た。
「ふふ、楓がまた水泳はじめてくれてお母さん嬉しいわ。」
母は嬉しそうに笑った。
その顔に思わず胸が痛くなった。
あぁ、そんな笑顔、
私には一度も向けてくれた事なんてなかったな。
今だって
紅葉にではなく
楓に向けて向けられている。
「…楓?」
「あ、ごめん!お母さん!いってきます!」
私は慌てて玄関のドアに手を掛ける。
「あ!そうだ!楓!昨日、渡し忘れてたんだけど、紅葉からお手紙来てたわよ!」
その声に足を止める。
母は慌ててリビングに戻ると、
またバタバタと玄関に現れた。
そして私に一通の手紙を渡した。
「ありがとう、母さん。いってきます。」
私は手紙を受け取ると家を出た。