第1章 ホチキス
松本side
9月
この間発表された異動で
営業1課から5課に売上底上げのために移った俺は
朝礼の前に課長の元に向かった
「おはようございます、今日から異動してきました松本です」
軽く頭を下げてから
目の前の課長を見ると
「おはよう、松本くん、よろしくね~」
朝の慌ただしい時間に似つかわしくない
ふにゃりとした笑顔を向けられた
この営業5課の課長…大野さんは
課長らしくないやら不真面目やら…そんな噂ばっかりが聞こえてきていて
まあ…噂なんて事実に尾ひれ背びれがついたものだろうと
あんまり信用はしていなかったけど…
初めて対峙して雰囲気を感じて…
尾ひれ背びれは意外と小さなものなのかもしれないと思った
少なくとも…1課の櫻井課長とはタイプが全然違う
デスクに広がる釣り雑誌に
早くも漏れそうになったため息を飲み込んで
「よろしくお願いします」
もう一度軽く一礼してから
俺の席となる主任席に腰をおろした