第6章 マグネット
大野side
松本くんの目から綺麗な雫がどんどん溢れてくる。
こんなに綺麗な物、この世にあっただろうか。
必死に泣きそうなのを堪えて、松本くんにハンカチを差し出した。
受け取った松本くんはハンカチで目を覆ってしまった。
「ありがとう…ございます…」
「ん…」
言葉がすんなりでてこない。
でもさっきとは違って、それはひどく幸福な沈黙で。
松本くんの小さく鼻をすする音だけが部屋に響いてる。
やがて涙が止まると、にっこり俺に向かって微笑んでくれる。
立ちあがって、その手を取った。
「部屋…取ってあるんだ。行こう」
柄じゃ、ない。
だけど松本くんには精一杯ロマンチックなことをしてやりたかった。
会計を済ませ、ロビーに出る。
ソファに松本くんを座らせて部屋のキーを受け取る。
「さ、行こうか」
かちんこちんに緊張した松本くんが俺を見上げた。
「大丈夫。俺も初めてだから」
男は、ね。
知らないわけじゃない。
男同士がどうやってするのか。
だけど、今はそんなことよりも、早く松本くんを抱きしめたかった。
この腕にくるんでしまいたかった。
「行こう…」
そう囁くと、不安に瞳が揺れた。