第6章 マグネット
大野side
「僕、好きな人がいるんで…」
そう言った松本くんはひどく真剣な顔で俺を見た。
「そう…か…」
ワイングラスを口元に持って行き、こくっと一口含む。
甘酸っぱいアルコールが、やけに沁みる。
「俺も、いる」
なかなか次の言葉が出てこない。
グラスを爪で弾いて、なんとなく沈黙を埋める。
「俺は…松本くんにこんないい縁談があるって聞いて、どうしていいかわからなくなった」
仕事を頑張っている松本くん
一生懸命いい加減な俺についてこようとしてくれた松本くん
そんな松本くんが出世に繋がるかもしれないチャンスを壊したくなかった。
けど…
「…俺は男だ…だから言えなかった」
そう言ったら、松本くんの表情が少し歪んだ。
涙をいっぱい溜めた目で俺のこと見てる。
「こんなこと初めてなんだ…こんなに人を好きになるなんて…恥ずかしいけど、今までなかった…」
ギュッと手を握りしめた。
「…誰にも、やりたくない」
ぽろりと綺麗な涙が、松本くんの頬を伝う。
「抱きしめたい…触れたい…キスしたい…」
ぐっと目に力を入れて松本くんを見つめた。
「好きだ」