第6章 マグネット
大野side
12月に入って、寒さは本格的になってきた。
厚手のコートを引っ張り出してきて、マフラーも装着。
じゃないと外回り耐えらんない。
来年の会社カレンダーも出来上がったから暮れのあいさつに得意先を回ろうとエントランスに出たら、櫻井くんとすれ違った。
「よう、大野くん」
「櫻井くん、おはよ」
櫻井くんがちょいちょいと手招きした。
「なんだよ」
「あのさ、俺、相談があるんだけど」
「なんの相談だよ。金なら貸せねえぞ?」
「ばか。そんなんじゃねえよ」
そう言って櫻井くんは俺の首に腕を回して耳に口を寄せた。
そのとき、松本くんがカレンダーをたっぷり抱えてエントランスを歩いてきた。
俺と目が合うと、松本くんは無表情になって通り過ぎていった。
「あっ…ちがっ…これはっ…」
「あ?なに言ってんだよ。大野くん」
「いや、急ぐから離せよっ」
「なんだよぉ…松本となんかあるわけ?」
「ち、ちがうから、離せっ」
櫻井くんはぱっと腕を離した。
慌てて松本くんを追おうとすると、手を掴まれた。
「俺、大野くんが好きだ」
「へっ!?」
冗談は顔だけにしろよ…