第5章 いつもの(神田)
「確かに、調理班とはあんまり会話しないもんなー」
のんびりとそう呟く青年はラビと名乗った。
彼の言った通り、会話している人も勿論いるけど、科学班や探索班と比べて、調理班のしかも厨房ともなれば裏の裏。カウンターにも出ない私は他の班の人と会話をすることが少なかった。
「えっちょなおさらダメ…エクソシストに風邪うつしたら大変…!体大事にして…」
ジタジタと足を振り、降りると抗議するが余計に体を密着させられ、ろくに動けなくなる。
「その言葉そのままお返ししますよ。大丈夫です。ご飯ちゃんと食べてますし。」
この子…とんだ人たらしだわ…
「…治ったらなんでも好きなもの作ってあげるから言ってね。」
「はい!」
元気よく答えるアレンくんはまずはみたらし団子をたくさんと続ける。
ん?みたらし…?
「アレンくん、みたらし好きなの…?」
「?はい。」
みたらしといえばイエスジャパニーズじゃないですか。もしかしたら…
「ねぇ、もしかして…」
「あ、ユウ!」
ラビくんの声に顔を上げれば、呼ばれたその人は機嫌の悪そうに舌打ちをした。
なんか怖いな…
「どこ行くん?」
「どこでもいいだろ。」
「神田、コミュニケーションってできますか?」
「あ?」
何が起こったのか展開が早すぎてわからなかった。
抱えてる私など意識に入らないようで、アレンくんと神田と呼ばれた彼が頭上でガンつけあっている。
「仲悪いんさこの2人。」
「見ればわかる。」
わかるけど勘弁してくれと仲裁に入ろうと思った時だった。
「あれ…?」
「あ?」
ふわりと彼から麺つゆの香りがかすかに漂った気がした。気がしたけど、アレンくんに向けたままの睨みをこちらへ向けられて、「何でもないです」としか言えなかったのは仕方がない。
「コラ、女性をそんな風に睨まない!」
「チッ」
舌打ちをしてそのまま去っていった彼を見送ると空気が軽くなったことで疲れがどっと増えた気がした。
「すみませんね。大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫…」
大丈夫だけど、もしかして
「今の人っていつも蕎麦食べてる…?」
「えっ?よくわかりましたね?」
キョトンとするアレンくんに苦笑いを返す。
ああ、私の心の友よ…
いつか握手するのを密かに夢見ていたことは忘れることにした。