第4章 キーパー(ティキ)
月明かりの照らす部屋。
静かで美しいこの空間は、頬に涙を流す彼女がとてもよく映える。
「ティキ…?」
「どうした?」
「また…私はまた人を…」
その手と服に飛んだ赤は少し黒ずんできていて、ざわざわと腹の奥が疼く。
良い。いい色だ。
彼女はその色が嫌いだった。
柔らかく美しい淑女は、自分の中に目覚めたノアを未だ受け入れられず、教団の者をやらなんやらを手にかけてはこうして1人涙を流す。
「ティキは、怖くないの…?いつか私は、人としての大切な人も殺して、でも、それを悔やむこの感情も、ただの私も消えるんじゃないかって…」
それがどうしようもなく怖い。
そう語る彼女を優しく引き寄せれば、抵抗なく腕に収まる。
愛しい愛しいオレの家族。
でもそれだけじゃない。
人として、こうして罪に涙を流す彼女も、己がメモリーの望むままに赤い快楽に浸る彼女も、どちらも酷く清らかで、どちらも酷く美しかった。
「大丈夫。俺がいるから。どちらのお前も、オレがきちんと見てるからな。」
だから耐える事はない。
望むままに
動くままに
どちらも死なせはしない。
永遠にどちらも、君であって欲しいんだ。
果たしてそれは、彼女にとって幸せなのか分からないけれど。
>キーパー.fin