第2章 ifの願い(コムイ)●
「邪魔しといてあーんまこういう事は言いたくねぇけどさ。もうちょっと自分の立場考えろっていうか、気をつけろよ。」
「…ごめん。」
ラビの言う通りだ。
死にそうになって自分の首の重さを思い出すなんて…
「コムイさん…」
声をかけられてハッとする。
腕の中の彼女は不安そうにこちらを見上げていた。
「ごめんね。彼はラビ。僕の職場の…いや、ごめん。」
あんな光景を見せて
あんな怖いおもいをさせて
何も言わないなんて無理だろう。
「少し長い話になるけど、いいかな?」
それから彼女の店へと場所を移して、AKUMAや教団、エクソシストの話をした。
「そういう訳で、その、怖い目に合わせてごめん。」
きっと狙われたのは僕だ。
気を抜いて彼女を危険な目に合わせた自分が許せない。
そしてこんなときになって、彼女に惹かれていることに気づいたことも。
「コムイさんが悪いわけじゃ…結局ラビくんが助けてくれたわけだし…」
「…ごめん。」
空気は晴れないまま、店を出ることにした。
ラビが先に出て、その先に続こうとドアに手をかけたところで彼女に声をかけられる。
「…このままサヨナラなんてやめてね。また、待ってますから。」
いつものようにふわりと笑う彼女に胸が苦しくなる。
気づけば頬に手が伸びていた。
「…ごめんね、僕が使徒だったら、キミを守れたのに。」
あの時、ラビに救われた時に感じたのは安堵と感謝。そして圧倒的絶望と嫉妬だった。
目を見開いた彼女は、僕の手を取ると首を横に振る。
「守ってくれましたよ。嬉しかった。」
今までに見たことない笑顔だった。
愛しいと思った。
彼女と2人、このままどこか遠くへ逃げてしまいたいと思う程に。
「……ありがとう。」
頭に巡る言葉は口から出ることはなく、ドアの音が響くだけだった。
それからしばらく、彼女のところへは行っていない。