第8章 同期、さんにん。
side灰羽
雨に打たれた梢は、結局あの後熱を出した。
俺は出社前に梢の食べれそうなものをコンビニで買い、冷蔵庫に入れて出社。
時間は始業ギリギリ8時52分。
「リエーフ、遅え。」
「すいません黒尾さん。梢の看病してきたんで遅くなりました。」
「椎名サン、休みなの?」
声がした方に目を向ければ、平然と自分の席に座る月島。
「風邪。熱っぽいみたい。」
ぶっきらぼうに言えば、月島はさして興味ないように目の前のパソコンに目を戻した。
「…心配じゃないのかよ…」
ぽそり、呟いた言葉。
「灰羽、仕事が始まる。」
赤葦さんに声をかけられたけどそんなの知ったことか。
俺は鞄を投げ捨て月島の胸ぐらを掴んだ。
「梢っ、今朝泣きながらずぶ濡れで帰ってきたよ。
何があったか知らないけど、梢のこと泣かせるんだったらもう容赦しない。」
ぎろりと睨み付ければ、月島も俺を睨み返し手首を掴んできた。
「首、苦しい。離してよ。」
「リエーフ。止めろ。」
黒尾さんからの叱責も聞こえ、俺は月島から手を離す。
「俺、梢と付き合うことになった。」
「…なんで僕にそんなこと言うのさ。」
「梢泣かせてばかりのお前には絶対梢は渡さないっ!」
そう叫ぶと、月島ははあ、とため息をつく。
「人の恋愛ほど見ていて面倒なものはないよ。勝手にすれば。」
「ああ、勝手にする。」
俺は投げ捨てた鞄を拾い自分の席に座った。
俺は気づかなかった。
月島がデスクの下で爪が食い込むほど手を握りしめていることに。