第7章 梅雨。
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「落ち着いた…?」
こくりと首を縦にふる。
結局、私は灰羽くんに私の家のお風呂に突っ込まれ、頭から足の先までほかほかになった。
テーブルを挟んで向かい合わせに座る灰羽くんが私に向かって手を伸ばす。
びくりと体を震わせた私を見て一瞬止まった手は、そのまま私の目元に触れた。
「いっぱい泣いたね。赤くなってる。」
赤くなった目元をなぞる指先。
あったかくて、優しくてまた涙が出そう。
「隣、行ってもいい?」
『うん…』
灰羽くんは隣に座ると、私の肩を抱き寄せる。
「…月島と…何かあった?」
びくり、体が跳ねた。
灰羽くんは、はあと息を吐く。
「なんとなくだけど、前から2人のことで不思議に思うことがちょくちょくあったんだ。
梢って月島が好きなんだろ?」
こくり
『でもいいの…きっと月島くんは私のことなんて好きにならない。』
そう。
私はただの遊び相手。
私達にあるのは身体の繋がりだけ。
「それで、いいの?」
『いいの…』
そう呟けば私は灰羽くんに抱きしめられていた。
「俺と付き合おうよ。月島の代わりでいい。」
『そんなひどいこと…できない』
灰羽くんから逃げるように胸を力一杯押すが、逆に腕を掴まれ胸の中に抱き込まれる。
「少しずつ俺のこと考えてくれれば良いんだ。
梢の気持ちが落ち着くまででいい。」
ぐらり
視界がゆれるような感覚。
甘い誘惑に流されてしまいそう。
そんなのいけないってわかってる。
でも…
「梢の悲しむ顔、見たくない。」
そう言われ私は灰羽くんの背中に腕を回した。
『よろしくお願いします…』
そう呟けば、抱きしめる強さが少しだけ強まる。
灰羽くんにすがりつきながら考えていたのは
私を見つめるつきいろの瞳だった。