第10章 出張。
いつのまにか梅雨は過ぎ去り、ちらほらと蝉の鳴く声も聞こえてきた。
夏だ。
去年までなら長期の休みもあって嬉しかったのだが今年からは社会人。
長期休みなど盆の数日間しかない。
それに東京の夏は暑い。
アスファルトに照りつける太陽の光がまぶしいくらいだ。
そんな中、私と月島君は上司である黒尾さんに呼び出された。
『私と月島君が他支部に応援…ですか?』
「そう。トラブルでてんやわんやらしくて猫の手も借りたいらしい。でもこっちも仕事ばんばん入っちゃって行けるのが新人くらいで…
だからってリエーフ行かせたらこっちの身がもたないしな…」
ふたりきりで…
少しの不安と、期待が胸の中でぐるぐると渦巻く。
「場所と日時は。」
「場所は宮城県。早速で悪いけど、明日…行けるか?」
「僕は大丈夫です。椎名サンは?」
『わっ私も大丈夫です!』
じゃあよろしく。そう言った黒尾さんは、何かを思い出したようで一度下げた目をもう1度上げる。
「そうそう。多分聞いた感じ、あの量は1日じゃあ終わらねーから2日間、出張扱いで出しておくからな?」
うそ…
その事実を聞いた私が月島君を見れば営業用のスマイルを私に向けていた。
「よろしくね?椎名サン?」
『よろしくお願いします。』
「じゃあ明日のことは後でメッセージでやり取りしようか。
今は仕事に戻るよ?」
『はい…』
嬉しいようで不安な気持ち。
知らない場所で、月島君とふたり。
何とか平静を装いながら私はその日の仕事をこなした。