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BLEACH お題消化2

第2章 七十六、百夜



「満流よ」
 殺気石で作られたひどく狭い牢の中、伴も連れずに山本総隊長は満流の元を訪れた。満流は殺気石で作られた重い手枷、足枷、首枷に負けて、力無く床に横たわっていた。
「満流よ、起きよ」
「……起きているよ、爺さん」
 乱れた髪の間から、光のない目がこちらを見返す。掠れた、息のような声は、ぎりぎり山本に届くかどうかといったところだった。
「調子はどうじゃ」
「良いように見えるかよ」
 は、と息を吐いて、唇を歪める。笑みのように見えなくもないそれを見て、山本はふむと頷いた。
「浦原の薬は効いておるようじゃの」
「あんなにどくどく点滴打たれて、正気保っている方がおかしいっての」
 満流の腕には、点滴の管が繋がれていた。一方は満流の腕に、もう一方は牢の天井へと消えている。その先は技術開発局へ続いているはずだ。
「今日で刑期が幾日経つと思う」
「知るかよ。窓もないこんな素晴らしい部屋に閉じ込めていただいて、お陰で昼も夜も無い生活だ」
 それもそうじゃの、と山本は髭を扱く。
「お主の夜は、まだ続く」
「だろうね」
「その夜に、お主、耐える気はあるか」
「耐えるも何も」
 今度こそ満流は明確に笑う。
「死ぬ術も無くて、死んだところで死に切れもせず。耐える以外に何ができるっていうんだ」

「よいしょっと」
 山本が帰って暫くして、満流は枷の重みなど無いかのように立ち上がり、うん、と伸びをした。そして監視カメラに向かって親指を立ててみせる。入口が閉ざされれば真の闇に包まれる牢内だが、赤外線でも何でも、中が見える工夫はしているのだろう。
「ありがとう浦原。点滴希釈してくれているお陰で全然辛くないよ。しかし山本の爺、百日記念に顔を見せるなんて可愛いところあるじゃない」
 送信一方の通信機では返事も期待できないが、それでも受信機の先にいる浦原は笑ったのだろうと想像する。

 ここは孤独だ。
 誰かが見てくれているという意味では、本当の孤独に程遠いものがあるけれども。
 孤独は満流に優しい。
 誰も死なないのが特にいい。
 今、全てを失った満流にとって、何も持たないことは安らぎだ。
 幾日でも、幾千日でも耐えよう。
 ここに自分がいることで、誰かが何かを失わないのであれば。


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