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BLEACH お題消化1

第5章 十六、夕轟



「隊長、失礼します」
 副官の悟が書類を手に隊首室を訪れた。地上からは首を巡らせても上が見えないほどの高さがある、零番隊瀞霊廷派出所、隊首棟の最上階。外壁を跳んで来るという手もあるが、窓から隊首室に入るという無礼に慣れない悟は、いつも螺旋状の内階段を、歩くか、走るか、跳ぶか、いずれにせよ律儀に上っていた。
「隊長?」
 返事が無い満流の、後ろ姿に声をかける。窓辺に座り、ぼんやりと外の景色を眺めていた満流は、再びの声に漸く悟を振り返った。
「ああ、悟くん」
「頼まれていた九番隊の資料、お持ちしました」
「どうもありがとう。机に置いておいて」
 僅かな微笑みだけを返して、また窓の外へと視線を戻す。すべての瀞霊廷の建物を下に見て、沈む夕日が何にも遮られずに黄金色の光を放っていた。
「どうしましたか?」
 ついでだからと備え付けられた給湯室で湯を沸かし、満流のために、そしてここまで階段を上ってきた自分のために茶を淹れる。鍛えられた身体では何の苦にもならないが、延々と階段を上り続けるという道程は精神的には辛いものがあった。
 茶を淹れ終わったところで、やっと満流は口を開いた。
「会いたい人が、いるんだ」
 満流の目には、今日最後の光が入り込み、不思議な輝きを放っていた。
「もう会えないわけじゃないけれど、まあちょっと、難しくてね」
 満流の髪に光が映えて、暖かな橙色が空を染め上げる。
「……偶に、思い出す。夕日を見るとね」
「何か思い出でも?」
「いや、夕日ってたくさんの色が混じるじゃない?」
 指さした先では、今まさに太陽が沈もうとしていた。金色、橙、薄桃色、銀色、雲の藍色……今日の夕焼けは一段と美しい。悟は目に見えた色の数を指折ろうとして止めた。複雑な色味の混じりあい。
「偶に、あいつの髪と似た色の見える日があって、そういう時に思い出す」
 たまーにね、と満流は目を伏せた。今、脳裏には、今日の美しい夕日ではなく、彼の人が浮かんでいるのだろう。
 どんな人だろう。隊長の心に姿を残した人。女性だろうか、男性だろうか。どんな色を、隊長の心に残していった人なのだろうか。何千年と生きたこの人の心に残るなんて、どんなに鮮やかな色を残した人なのだろうか。
 自分も満流に色を残したいと考えていることには気付かないふりをして、悟は満流に湯呑を手渡した。



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